Sasanka Banerjee Collectionについて
インドの古典音楽は口伝で伝えられてきた伝統音楽です。
口伝される中ではRaagは流派による違いもありましたが、演奏の録音・再生という技術的変革による影響でRaagは次第にステレオタイプに変化してきました。
20世紀には多くの巨匠達が録音を遺し、生徒達はそれらをマスターピースとして繰り返し聴くようになりました。
流派による即興のアプローチやメロディーの特色は残りましたが、上行・下行は今日ほぼ統一されています。
私がSenia Malhar流派の伝統を、Dwijendra Mohan Banerjee先生と、故Sasanka Banerjee先生から学ぶ中で、Senia Maihar流派以外の歴史的な音楽家による楽曲も学びました。
その多くはムガール帝国時代に活躍した、楽聖Miyan Tansen(1493or1500~1586)の子孫達が残したBandeshバンデッシュ(楽曲)です。
コピーしたノートの原本は80年代に市販されていたノートで、私にも見慣れたデザインのものでした。
書かれている楽譜を見るとリアルタイムで習いながら書かれたものではなく、80年代当時に書き写したものと思われます。
もともと口伝で伝えてきた音楽なので記譜法が確立されておらず、それぞれ独自の方法で書かれた楽譜が多く、ノートの保管状態の関係で虫喰いで落ちてしまっている箇所も多数ありました。
それらは古文書の解読に近い困難な作業で、Dhrupadの楽譜にいたってはターラやサム・カリ、そして拍節の捉え方が実にあやふやに書かれています。
そのような中で約100年前に活躍したSarod奏者、Ustad Kaukab Khan = Asadulah Khan(1858~1917) の楽譜は、現代の器楽と同じシステムなのと比較的読みやすく書かれているので、まず最初にこれから手をつけることにしました。
やはりここにも現在では歌われなくなったメロディーの動き方もありました。
ここで紹介するのは BandeshバンデッシュとSwara Bistarスワラビスタールです。
Bandeshはリズムサイクルを伴って作曲された楽曲です。
器楽の演奏の後半でタブラの伴奏で演奏されます。
Bandeshには「Sthayee」中音域、「Manjh」低音域、「Antara」高音域の3つの楽曲があります。
中には「Sthayee」と「Antara」のみの Raag もあります。
それは Raag の性格によります。
これらは繰り返し歌われるテーマで、展開していく即興の中心的役割を担います。
Swara BistarはRaagのメロディーを網羅するパターンをまとめたものです。Raagには他にPakar(中心的フレーズ)、Charan(中心的メロディー)、Torkifu(メロディーの終止形のフレーズ)などがあります。
Swara BistarもBandeshのように繰り返し弾いて、無意識下でも反復出来るように練習していきます。
Swara Bistarには句節感も伴っています。
それらはインド譜では句点、西洋譜では小節のBarで著しました。
それはある一定の調子を表現するものではなく、練習していく中でTaalaサイクルの中での句節感を、積極的に表現に活かすための感覚を養います。
句節はフレーズを数値化して繰り返したり、組み合わせたりする即興の方法の一つになります。
そのために句節感を意識して反復練習する意味を込めて表記しています。
しかしこうした数学的プロセスばかりが常套手段化してしまうと、Raagは機械的で無味乾燥な表現に陥ってしまいます。
もし不明の点があれば srgm@kenjiinoue.com までメールでお問い合わせください。